忘れられない女性の話
３５年も生きていると、色んな意味で、決して忘れられない女性ってのが数人はいる。
その内の一人の話をしたいと思う。
多分、５年前くらいだけど、バーで女性に知り合った。
彼女は友人と二人で飲みにきていて、僕は海外から来た友達と二人だった。
自然と僕らは話はじめて、いつの間にか２ｖｓ２に分かれていた。
（彼女の友達は英語が少し話せたようで、結果的に２ｖｓ２に別れた）
彼女は決して、誰もが振り返るような美人ではなかったが、清潔感のあるモノトーンの格好をしていて、細身で長身だった。
少しタイトな膝丈スカートに黒いパンプスを履いていたように記憶している。目は切れ長でシャープな印象があった。
そして既婚者だった。当時僕と同い年の３０くらいだったと思う。
はじめは他愛もない会話をしていたが、妙に会話がはずんだ。彼女の表情や声のトーンから、本当に楽しんでいることが伺えた。
お互いの好きな食事や音楽の話、マンガの話（僕ら共通して「恋愛カタログ」という少女漫画が好きだった）をした。
僕らは不思議な程趣味が似ていた。話は全く尽きず、酒は進み、気がついたときには、僕らの連れは店を変えてしまって、
二人きりになっていた。掛け値なく、楽しい夜だった。
何時間もたった頃、僕らはお互いの家庭の話を初めた。僕は自分の家庭が順調に進んでいることを話した。
その後、「私は１６歳の時、今の旦那とでき婚したの。もう１５年位前」、と彼女はゆっくり話し始めたが、そのことを僕はずっと忘れない。
当時彼女も旦那もまだ高校生だったが、結婚を機に高校を退学し、旦那の実家の古い洋食屋で、働き始めたそうだ。
旦那は料理人見習いとして、彼女はお腹に子供を抱えながらホールとして。義両親は優しかったし、
お客も常連さんが多く、まるで家族のように接してくれたため、働くことにあまりストレスも感じなかった。
そうして何年かする内に、旦那の両親が亡くなり、旦那は当然洋食屋を継いだ。そこから何年かは幸せな家庭が続いていた。
子供は３人生まれ、店は繁盛しているとは言えないまでも、先代のメニューと味を忠実に守り、人当たりのいい彼女がホールを担当することで、家計に余裕ができるくらいの集客はあった。過不足無く幸せといっていい生活が続いていたそうだ。
状況が変わったのは、１年ほど前、アルバイトで１６歳の女の子が入ってきてからだったそうだ。
アルバイトの女の子は、器量も愛想もよく、常連を始めとするお客さんから当然のように
好かれた。店は以前より活気も出て、旦那は新しいメニュー開発に取り組んで、新しい看板メニューとなる
シチューだかオムライスだかを開発して、それが地方TVに取り上げられるくらいの人気メニューになった。
忙しくなった中、アルバイトの女の子の存在は彼女にとってもとても助けになったし、彼女は女の子に感謝していたそうだ。
ただ、その頃から、徐々に旦那の行動がおかしくなり、外泊が増え、終いには家に帰ってこなくなったそうだ。
もちろん宿泊先はアルバイトの女の子の家。二人はそれがまるで当然のことであるように付き合い始めた。
奇妙なことに、洋食屋の営業はちゃんと続けていて、旦那、彼女、アルバイトの女の子の３人で
每日、これまでと全く変わらず、働いていたそうだ。仕事が終わったら、旦那はアルバイトの女の子と一緒に
女の子の家に帰る。次の朝、二人は一緒に出勤してくる。
僕が彼女と出会ったのは、そういった日々が１年くらい続いていた頃で、落ち込んでいる彼女を
元気づけるため、友達が飲みに連れ出してくれた夜だったそうだ。
「そんな生活、１年も続けられるなんて信じられない」と言った僕に対して、「私は16から今の
仕事しかしていない。離婚して、子供３人を食べさせる術を知らない」と彼女は抑揚のない声で
答えた。僕は継ぐ言葉を持ってなかった。
「時々、思い出したように旦那が家に帰ってくるの」、と彼女は言った。「ほんと１ヶ月に１回あるか
ないか」
「その時、旦那はどんな感じで過ごすの？」
「普通に良い家庭人みたいに振る舞うの。子どもたちをお風呂に入れて、みんなで食卓を囲んで、
一緒にテレビを見るの。子どもたちを寝かしつけて、その後、私と二人で寝るの」
「その状況に嫌悪感とかないの？」
「嫌悪感といったらわからないけど、何かモヤモヤはする。でも、嬉しいって思うこともある。子供達も
喜んでるし」
「込み入ったこと聞くようだけど、二人で寝る時、旦那さんは体を求めてくるの？」
「旦那からはないよ。全くない。でも、必ず私が求めるの。その日は何回も求めるの。何回も。できるだけ多く」
「なんで？ごめん。その思考がよくわからない。他の女を抱いてる男なんて嫌じゃないの？嫉妬なの？それとも負けたくないって気持ち？」
「ううん。違う。そんなんじゃない。私は、ただ、”したい”の。沢山、”したい”の。私だって女だし、私は結婚してから旦那しか知らないもの。１ヶ月に一晩しかできないんだもん」
その後、彼女とはしばらく連絡を取り合っていたし、一度だけ寝たけど、特別なキッカケもなく、今は全く連絡を取ってない。
離婚して、新しい彼氏ができた、とは風のうわさで聞いた。それを確認しようとも思わない。
ある時、「あなたが既婚者じゃなければよかったのに」って彼女は僕に言っていたけど、僕は同意しなかった。
彼女との間に運命も何も感じなかった。セックスだって普通だった、というより胸がすごく小さかった事以外、碌に覚えてない。
ただ、彼女のことはずっと忘れないとは思うし、今はできるだけ沢山、”している”といいなと祈っている。
忘れられない女性の話２
忘れられない女性の話２
僕は友人の恋人と寝た事はない。友人の好きな人とはあるし、友人の元恋人ともある。
でも、友人の恋人と寝たことはない。これはクズでどうしようもない僕が自主的に、
そして完全に守っている自分なりのルールだし、一生変えることはない。
でも、恋人の友人と寝たことはある。
大学に入ったばかりの頃、僕はお寺の娘と付き合っていた。高校３年生の時のクラスメートで、顔はお人形みたいにかわいく胸と性格は控えだけどユーモアを解してくれるいい子だった。趣味はピアノで、僕は彼女にバレンボイムが弾くモーツアルトを教えてもらった。２０年近くたった今でも愛聴盤の一つだ。
僕と彼女が親密になっていったのは、僕らの共通のクラスメートで、彼女の親友であった女のことが、卒業間際に企画した「カラオケ」に一緒に参加したときからだった。
彼女は、僕の顔が好みで、入学当初から僕を狙っていたのだそうだ。（僕の顔は1,000人に一人ぐらいの割合でどストライクにあたる、個性的な顔）でも恋愛に奥手だった彼女はそれを言い出せず、このまま卒業してしまうともう二度と会えないと言う思いから親友に企画を依頼。そのカラオケが開催された。
正直言うと僕は以前からその親友のことが気になっていた。
長身で狐みたいな顔をしていた子だった。決して美人ではなかった。でも、僕は音楽の授業でその子が歌うカルメンを聞いた時からずっと気になっていた。とても力強い歌声だったから。
でも、カラオケの当日、僕が気になっていた女の子はいかに自分の男遊びが激しいのか、今の彼のセックスが良いのか、という話を（わざと僕に聞かれるように）していて、僕はチャンスがないことを悟った。
そこに、彼女が「ずっとテリーくんのこと気になってて」と来たので、性欲に支配された猿そのものだった僕は飛びついたのだ。
彼女とはデートの約束をして、その日は解散になった。
ちなみに親友の子はUAのミルクティーを歌っていた。とても上手で、今でももう一度聞きたいと思う。
僕の彼女は男性経験はなかったが、性には積極的で、確か2度めのデートの時、彼女の家ではじめて寝た。
その次のデートからはいつも彼女の部屋で、毎回、局部に擦り傷ができるくらいのセックスしまくった。
楽しい日々だった。僕は地元の友人たちや親に彼女を紹介した。自分なりに最大限大事にしているつもりだった。
そして、恐らく僕がはじめて結婚を意識したのは彼女だった。
彼女の父親は既に他界していたが、母親、美人の姉２人、みんな僕をかわいがってくれた。
この中に入っていって家族として暮らすのは悪くない選択に思えた。
ある日、彼女から「友達が彼氏のことで、あなたに相談したいって」と唐突に話をされた。「のってあげてくれない？」
僕は「なんで僕なのか？」という疑問を持ちつつも快く引き受けた。彼女に信頼され、頼りにされているようで嬉しかった。18歳の男子なんてそんなもんだろ？
「友達と二人きりであってほしい」と彼女が言い出したことには少し戸惑ったけど、「私がいると邪魔だから」と彼女が言うので、渋々了解した。
僕は彼女から指定された時間に待ち合わせ場所に向かった。
確か、最寄りの駅の改札付近だった。そこに現れたのは僕のよく知った顔だった。
親友の女の子だった。歌のうまい、僕のクラスメートのあの子だ。
「ごめんね」と彼女は言った。「どうしてもテリーに相談に乗ってもらいたくて」
その後、どういう流れになったのか、記憶は曖昧だ。
多分、とりあえず僕らは、居酒屋にでも行ったんだろう。そして、「相談らしきもの」を受け、「それらしい回答」をしたんだろう。でもほとんど覚えていない。中身なんてろくになかったんだとおもう。
ただ、「なぜ、この子は僕に相談しなければならないんだろう」という違和感をずっと感じていたのは覚えているし、「彼女といるよりもずっと楽しい時間を過ごしている」と感じていたのも覚えている。
その後、僕らはカラオケに移動した。きっとその子が言いだしたんだと思う。僕は女の子に自分の唄を聞かせたいと思うほど歌唱力に自信はない。
地元には大きなカラオケが２つあって、そのうち寂れている方だった。客は僕らの他にはほとんどいなかった。
通された部屋はとても暗くて広いパーティールームだった。確かはじめに彼女が歌い始めたんだと思う。その次は僕だったのかな。
覚えてない。しばらくして、僕は彼女に「ミルクティー」をリクエストした。
彼女はそれに応えてくれた。本当に上手でエモーショナルなミルクティーだった。
彼女が歌い終わった時、どちらともともなく僕らはキスを初めた。そして僕はその子のパンプスとストッキングを脱がせて、合皮張りのソファーの上で、セックスを始めた。時間は短かったけど、こんなによかったセックスは僕の人生でもほとんどない。
後日、僕は彼女の家に呼ばれた。部屋に入ると、そこには親友の子もいた。
「どういうことかわかるよね」と、表情を変えず、彼女は言った。
僕は彼女の親友と寝た。疑いようもなく、目の前にその証拠があった。
「ごめん」と一言だけ伝えて、僕は家を飛び出た。目の前に起こったことが理解できなかった。
その日のことじゃなくて、あの日、待ち合わせの場所で、その子を見つけたその瞬間から、自分の目の前で起こり続けていることが理解できなかった。
最低なことだけど、自分自身を責めることなんてなかった。
誰が、なんの目的で、こんなことを仕組んでいるのか、なんてことを繰り返し考えていた。
ただ、僕は大好きだった彼女を傷つけ、もう二度と許されないことは理解できていた。
そして、これまた最低なことに、自分がもう彼女のことをこれっぽっちも好きではなく、「親友の子」にもう二度と会えないことだけを惜しいと思っていることも理解していた。
その後時間は数年間たつ。僕はそこそこの会社に入社し、社会人になって、色んな女と寝まくった。
そしてある日、僕は、「元」彼女と偶然出会った。街で歩いていると声をかけられたのだ。
彼女は、僕に傷つけられたことなんてなかったような笑顔で、僕に話しかけた。
その後、時間のあった僕らはイタリアンレストランで夕食をともにして、ホテルにいって昔みたいにセックスをした。
本当に昔みたいに、なんのわだかまりもなく、なんの違和感もなく。
事後、「あの時、何故、彼女の相談に乗るように、僕に言ったの？」とベッドの上で僕は尋ねた「その話はしたくないの。でも、恨んでないよ。テリーのことも、あのこのことも」それ以上、聞く権利なんて、裏切った側の僕にはなかった。
ただ、不思議なことに、その日を境に僕らは寄りを戻し、1年近く付き合った。たくさん旅行をして、たくさんデートをして、たくさんセックスをした。
その後、彼女が会社の同僚と二股をかけているのが発覚して別れるまで普通に楽しく幸せな1年だった。
浮気が発覚したのは彼女のフェラチオのやり方が変わったからだ。彼女は隠す気なんてなかったんだと思う。
僕が問い詰めた時、彼女は表情も変えずに認めた。なんの感情の揺れもないように思えた。
今でも彼女たちのことを思い出すことがある。例えば「ミルクティー」を聞いてる時。バレンボイムのピアノを
聞いている時。
そして、今でもあの時自分に起こったことを完全に理解できていないんだと感じる。
彼女は僕にとって大きな謎でありつづけるし、だからこそ今後も決して忘れることはない。
