忘れられない女の話5

5年前くらいに、月に1回くらいの頻度でご飯を食べに行く女性がいた。

彼女はもともと僕と同じ会社で働いていた元社長秘書で、柔和な笑顔が素敵なかわいい女性だった。

小柄だったが胸が大きく、いつも清楚な服装をしていて、指と所作がとてもきれいだったのを覚えている。

僕らは仕事で一緒になってから年齢が近いこともあり意気投合し、彼女が寿退職した後も、良好な関係を続けていた。

男女関係は全くなく、友人として。

ある日彼女との食事中、珍しく立呑の焼き鳥屋で、彼女がこんなことを話しだした。

とても楽しそうに。

 

面白い夢をみたの。とても長い夢で、変な現実感があって。

夢の中ではあなたと私は愛し合っていて、私は毎晩おかしくなるほどあなたに抱かれていたの。

私はあなたが愛おしくて仕方なくて、あなたからも強い愛を感じていた。たくさんキスもしたの。

いつしか私達には女の子が生まれて、あなたが娘ばかり可愛がるから私はとても嫉妬して、

でもそれも娘が中学生に上がる頃にはなくなって、あなたに反抗ばかりしてたわ。

でも、やっぱり娘はあなたのことが好きなのね、結婚相手にはあなたによく似た男性を連れてきたのよ。

孫を抱くあなたはとても幸せそうだったわ。

そして私が先に死ぬの。あなたに見守られながら。

あなたはがんばって笑っていたけど、泣くのを我慢していたのを私はわかってた。

 

ねえ、私はあなたと愛し合うとき、あなたのお尻の真ん中にあるほくろにキスするのが大好きだったの。

愛し合うたびに何度もそれにキスしたわ。

ねえ、今日、家に帰ったら本当にほくろがあるか確認してみてよ。右のお尻の真ん中に大きなの。

もし本当にあったら素敵じゃない?

もしあったら、ただの夢じゃなくて、平行世界に迷い込んでしまったのかもしれないって思わない?

 

そうだね、と僕は少し戸惑いながら答えた。もし本当にあったらキスしてくれる?

彼女はとても素敵な笑顔で、いいわよ、と答えた。たくさんしてあげる。

 

その日、僕は家に帰り、鏡で自分のお尻を念入りに確認したけど、残念ながら、ほくろは見つからなかった

そして、なかったよ、と彼女にメールをしたけど、返事がなかった。このメールを境に彼女は電話を変え

二度と連絡がとれなくなった。それから今まで彼女との接点はまったくない。

 

時々、指や所作のきれいな女性を見ると彼女を思い出す。

そして、どこかにあったかもしれない平行世界に思いを巡らせる。

そこでは今でも彼女と僕は愛し合っているかもしれない。

彼女は毎日僕のお尻のほくろにキスしているかもしれない。

そして連絡の取れなくなった彼女はもしかするとその世界で生きているのかもしれない。